効率的に眠るためには・後編: 眠りやすい環境の準備を

よく眠ることができるかどうかは、安全運転のためにとても重要なことです。しかし、いざ眠る段階になって、よく眠ろう、早く眠ろうと頑張ってもなかなかうまくいかないという経験のある方は多いと思います。今回は、少しでも効率よく眠るための条件について研究で明らかにされていることをとりあげます。
 よく眠るための条件・対策は常識的なことも含めていくつもありますが、ここでは、睡眠中には意識がないために見逃されやすい環境の整備について説明します。

快適な寝室環境

寝室の環境がおだやかで快適なこと、温度が快適で静かな環境であることは言うまでもなくもっとも重要です。温度が快適でない寝室では眠りにくいだけでなく、体調をこわす原因となります。

寝室での熱中症に注意

暑い中での作業での熱中症対策は必須ですが、休息中でも高温・高湿度の環境だったために熱中症になることがあります。トイレに関して何かと不便なプロドライバーの場合は水分摂取をがまんしてしまいがちな傾向がありますので、眠る前の作業で熱中症の危険に影響する脱水状態になっていないかに留意すべきです。ニュースなどで知られるように、特に高年齢の方が屋内での休息中に熱中症になる例が多いです。

うるさくても眠れる?

人は、就床してから短い時間に、はやく眠れたときに「よく眠れた」と感じますが、睡眠途中で一時的に妨害されたり、途中で何度も短い時間眼がさめても案外気が付きません。起き上がってトイレに行ったことさえ起床後には忘れている場合もあります。
 「私は騒音があっても眠ることができる」、「明るい照明でも眠ることができる」という方もいらっしゃるかもしれません。しかし、騒音や照明のまぶしさで何度も睡眠が妨害されたとしても起床した時には気づかない(記憶に残らない)場合もあるので注意が必要です。ちなみに、眼を長い時間閉じている睡眠時には眼の光の感度が高くなりますので、眼をあけたときに照明をとてもまぶしく感じてしまいます。やはり寝室は静かで適度な照明の環境にしておくべきです。
 音楽やラジオなどをききながらだとよく眠れるという方は、それを利用するのは有効な対策です。しかし、音のせいで明け方まで睡眠が深くならなかったり、何度も目覚めていても気づかない恐れもありますので、一定時間でオフになるタイマーを使用したほうが安心です。

寝返りは必要なこと

寝ているときの姿勢の転換(寝返り)は、実は人にとって自然かつ必須のことです。狭いスペースで寝返りを打ちにくかったり、そのたびに体をぶつけたりして深い睡眠に移行しないことが危惧されますし、上に述べたように、起床後にはそれに気づかず、忘れている可能性もあります。
 手術などの麻酔がかかっている場合など、寝返りができないと「褥瘡(じょくそう)」と呼ばれる障害や(接触局所で血行が不全となり周辺組織に壊死を起こす、いわゆる「床ずれ」)、長期間だと骨格が変形してしまう障害などが生じます。だから病院では、自分で寝返りができない入院患者さんの場合、看護師さんが「体位転換」をしてくれるのです。

エコノミークラス症候群

長時間狭い場所で寝泊まりをしていたためにエコノミークラス症候群を発症して死亡してしまう例があります。ずっと動かさなかった足に血栓ができて、立ちあがった後に血栓が肺などに移動して呼吸困難で突然苦しみだし、最悪死亡してしまうというものです。航空機の国際便のエコノミークラスの狭い席で長時間過ごしたために発症した例があることから、こう呼ばれています。車中などの狭い場所の寝泊まりを何日も強いられる震災などの大災害のたびに何名か犠牲者がでています。座位が長時間続く場合にはときどき立ち上がって歩いたりストレッチをして下肢を動かすこと、水分を十分にとること、などがエコノミークラス症候群などの障害防止に有効です。

楽な姿勢で眠る

狭い場所で無理に寝ていると体のあちこちが痛くなり、よく眠れません。睡眠時の姿勢の不自然さをなくし、障害を防ぐ方法としては、まず、体を横たえた楽な姿勢で眠ることができ、寝返りもできるスペースのあるベッドの環境を整えることです。

おわりに

よく眠って運転の安全を確保するためにも、健康障害を予防するためにも、前回取り上げましたように眠る前のリラックスタイムを確保し、睡眠のために整備された快適な寝室環境でゆったりと眠ることが大切なのです。

 

image: suzuki kazuya

公益財団法人大原記念労働科学研究所
上級主任研究員
鈴木一弥

これまでの研究テーマ:
運転疲労・眠気対策
人間工学(製造業、医療労働の負担軽減、立位によるデスクワークの有効性)
小型デバイスによる睡眠評価法、小型デバイスによる熱中症予防)

 

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